作業療法士と病院

混乱の現場、そして「請求」のプレッシャー

K病院は2階建て構造であり、1階は「開放病棟」。比較的病状が軽く、外出許可なども下りやすい状態の患者さんたちが入院している。逆に2階は「閉鎖病棟」といい、重症の患者さんや脱走癖のある人向けである。

皆さん回復するにしたがって閉鎖病棟から開放病棟に移り、自宅への外泊などで徐々に慣らしていって退院を目指すのだ。

作業療法のプログラムには、開放病棟の患者さんと閉鎖病棟の患者さんが分かれて行うもの、監視役の看護師などを多数配置して合同で行うもの、患者対作業療法士のマンツーマンで行うものがある。

たとえば、病棟ごとに行う中規模でのプログラムは、バレーや手工芸、コーラスなど。全病棟で行う大規模プログラムは、映画鑑賞や音楽鑑賞、写生など。マンツーマンプログラムは、編み物やワープロ・パソコン講習など、といった具合である。

T先輩と私の2人しか作業療法士がいないS病院では、マンツーマンプログラムはせいぜい2~3人ずつが限界であり、殆どが病棟ごとの集団プログラムか合同プログラムだった。プログラムの実施そのものは、T先輩が苦労して基礎作ってくださったおかげで、難なくこなすことができた。

ただ妄想や幻覚・幻聴といった症状が強い統合失調症の患者さんが圧倒的に多く、途中で離脱する人、脱走を試みる人、妄想にもとづく暴言・暴力などでプログラムが中断してしまう場面も多く、最後まで運営するのが一苦労だった。

普通はこう聞くと「じゃあ、重症の人は参加させなきゃいいんじゃないの??」と思われることだろう。

実際専門的な視点から見ても、急性期だったり状態悪化中の患者さんに、無理に集団療法などに参加させることは適切ではなく、段階を経て、しかも作業療法の治療意義をしっかり説明した上で参加してもらうのが正論である。しかし一方で、

現場によってはそうもいかない事情がある。

ある日T先輩がこうボヤいていた。「うちの入院病棟は全部で120人くらいの患者さんでさ、重症患者は多いし、高齢の人なんかはほぼ寝たきりだったりするのにさ。けっこう請求、請求ってうるさいんだよここの院長」

請求、請求と上から言われるのは、作業療法士にとってどこで働いていてもありがちなことである。要するに「診療報酬をなるべくたくさん獲得できるように」と急かされるのだ。

病院を受診してお金を払い、明細書を見ると「X線撮影○○点(または円)」「点滴○○点」「投薬○○点」など、病院で行った治療項目ごとに点数や値段が表示されている。精神科作業療法もまた、1回受けるごとにかかる点数・治療費が決まっており、これを日々最大限に獲得しようと努力することは、病院の経営上やむを得ないことではある。

しかし、明らかに作業療法への参加を拒否していたり、寝たきりで参加の意思を明示できない方を強制的に参加させたりするのは悪質なやり方。だから作業療法士は、拒否的な方には根気よく接して、作業療法の治療意義や楽しさを伝えて本人の治療意欲を高めていく。

また、寝たきりの方にも音楽やスキンシップなどの刺激を与えることは有効なので、意思疎通ができる方にはしっかりと説明やアフターフォローをしていき、面会に来る家族にも治療意義を説明し、一緒に参加してもらうなどの工夫をするなどの努力をするべきである。

しかし経営者側にしてみれば、作業療法部門の開設で一定の設備投資はしているし、当然人件費もかかる。日々最大限の診療報酬を獲得して経営を維持するため、時には無理難題をふっかけてくることもあるのだ。

たとえば、治療に拒否的で少しずつ説得し参加を促している患者さんの手を引っ張って半ば無理やり作業療法の実施場面に連れてきてしまい、かえって患者さんの不信感を強めてしまうとか。

せっかく作業療法士が日々少しずつ説明と説得にあたっていたのに、誰かが無理やり参加させてしまったことで二度と現れなくなったり、深刻なときには転院になったり、訴える、訴えないの話に発展したりもする。しかし、患者さんの気持ちになってみればそれも当然のことである。

T先輩と私は経営者の意図と現場の実情の板挟みになった状態で、上からは請求数アップのプレッシャーを浴び、活動性の低い患者さんたちからは「うるせーよ!出ねーよ作業療法士活動なんて」などという罵声を浴びることもあった。

逆に、年配の長く入院している患者さんから「先生方大変そうだね。でもね、中間管理職が上と現場の板ばさみになることはよくある話だからね。大変だからこそお給料もらえるんだからね。仕事があるだけありがたいと思って、頑張って♪」という涙の出るような励ましをいただいたり。

患者さんの言うことはあまりに正しく、若輩者の我々よりもよほど世の中を悟っており「なんでこの人入院してるんだろう??」と思わせられたりもした。

就職失敗…??さっそく嫌な予感(汗)
予感的中…何かとヘヴィなS病院