作業療法士と病院

就職失敗…??さっそく嫌な予感(汗)

まだ肌寒い4月。あらかじめ病院のワンルームマンションに引越しを済ませていた私は、マンション前から職員用の送迎バスに乗り、ベテラン看護師さんらに声をかけられたりしながら、ドキドキの初出勤をはたした。

病院に着くと、T先輩がにこやかに迎えてくれた。しかし初出勤だろうが何だろうが、医療従事者の朝は忙しい。着いたらすぐ申し送りに参加できるよう、準備をしなければならない。

私はすぐに制服であるケーシー(歯医者さんが着ているような、あの独特の形の白衣)に着替え、作業療法課の部屋を案内されて、緊張の面持ちで皆さんに挨拶した。

当時のS病院の場合、作業療法課のメンバーは、私を入れると全部で5人。以下のような構成だった。

1. T先輩(女性・作業療法士及び作業療法課課長)
2. Iさん(年配の男性・精神保健福祉士)
3. Oさん(30代の男性・精神保健福祉士)
4. Gさん(年配の女性・看護師)
5. 私

「新人ですのでイロイロご迷惑かけると思いますがよろしくお願い致します」

こう挨拶した私に、皆さんはS市内の観光名所の話や、冗談交じりの院長の悪口などでリラックスさせてくれた。その後の申し送りでは、ナースステーションに院長以下全員が集合し、私が新人作業療法士として紹介された後、さっそく夜勤帯の看護師さんたちからの申し送りが始まった。

「東102号室Mさん、希死念慮が強まり延長コードを飲み込むなどの逸脱行動が見られたため保護室にて経過観察しています」

希死念慮とは要するに自殺したい気持ちが強まることで、うつ病をはじめ様々な疾患に見られる症状。Mさんは女性で、うつ病及び統合失調症疑いの患者さんだったと思う。幻覚・幻聴に左右されて自殺をはかるケースも少なくない。

延長コードの、コンセントを2~3個差し込むあの四角い部分を飲み込んだようである。窒息死を狙ったのか。

「転院してきたばかりのS子ちゃんと、D男君が女子トイレで性的逸脱行動に及び、同じく保護室にて経過観察中です。2人とも暴言・暴行等なく落ち着いていますが…」

朝っぱらからあまり直視したくない絵が脳裏に浮かぶ。しかしこんなことは、若い子たちが入院している精神科病棟では日常茶飯事である。

ちなみに「保護室」とは、普通の病室とは別格の個室であり、鉄格子と頑丈な鍵、監視カメラがついている。奇声・暴行などの危険行為や逸脱行為があったりして他の患者さんと同室できない状態の時や、犯罪を犯して鑑定入院する患者さん向けに使用される。

大抵は病院の一番奥にひっそりとあり、そこからは鉄格子を叩く音や奇声・罵声が聞こえてくることも珍しくない。鑑定結果によっては、長期入院になることもある。有名な凶悪事件の犯人が、精神科病棟の奥深くに君臨していることも珍しくないのだ。

ところで、保護室に限らず、精神科病棟には無数の施錠扉があり、職員は全員ズボンのベルトを通すループにチェーン付の鍵をぶらさげている。

ナースステーション、受付から病棟への入口、各課の部屋の入口など、すべてのドアはいちいち鍵を回さなければ開かないようになっている。入院患者さんは病気の種類や重症度によって部屋を分けられているので、病棟間の行き来は職員の付き添いなしでは禁止だし、状態の悪い患者さんが院外に脱出することなどあったら大変である。

精神科の職員にとって、鍵は命より大切なものと言われる。だから大抵の精神病院では鍵の扱いについて全職員に入念な指導をしており、万一鍵を紛失した場合、厳罰が待っている。休職、罰金、所によっては退職なんてのもあるようだ。

私は申し送り後に自分の鍵をもらい、真新しいズボンのループに、重いチェーンをしっかりと結びつけ、2~3度引っ張って外れないことを確認した。

そして、申し送りの内容を聞くにつけ、どうやら思っていたより統合失調症の、重症患者さんが多いな…と早速嫌な予感がしたのだった。

そんな私でも就職決まる。
混乱の現場、そして「請求」のプレッシャー