作業療法士と病院

これって運命?!再び精神科作業療法士に

早々と精神科作業療法士の世界からドロップアウトし、東京暮らしやフリーター生活をしていた私。

その後思いがけないキッカケに恵まれ、雑誌のライター&イラストレーターという異質な世界で5年あまりを過ごしていた。

そんな私に、またまた転機が訪れた。

ある車雑誌の広告主である、中古車販売・修理の会社との飲み会があり、そこで出会った男性と付き合うことになったのである。

やっと見つけたマスコミの仕事が楽しくて、まったく男っ気ナシで突っ走っていた数年間。しかも相手の男性は現在の主人であり、出会った時から長い付き合いになる予感がしていた。

当時の彼は普通の会社員であり、平日働いて日曜祝日はお休み、すべてカレンダー通り。こうなると、盆も正月もへったくれもない、不規則な自分の仕事が苦しくなってくる…本当に今思えば、勝手なもんである。

別に自分にスケジュールを合わせてくれ、などと彼に言われたことはない。逆に私のヤクザな仕事を面白がり、カメラアシスタントのふりをして取材に同行してみたり、世の中がクリスマス一色のときに仕事が入ってしまっているわたしのためにイベントを延期してくれたりと、いろいろと協力してくれていた。

しかし、そういう付き合いが1年ほど続くと、彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。そして田舎の、彼のご両親の目も気になるのである。

土日休みの、普通の仕事に戻ろうかな…。

そう考え始めたら、行動は早かった。私はいろいろな職種を視野に入れ、とにかくカレンダー通りに休める仕事を探したのである。

就職雑誌を買ってみたり、ハローワークに行ってみたり。営業とか事務とか、とにかく普通の生活に戻れるなら何でもいいや、という感じで手当たり次第に調べてみた。しかし縁が無かったのか何なのか、面接の申込みをしようと電話をすると「あいにく昨日他の人に決まったんです」とか、先方の指定する面接日に、外せないロケが入っていたりとか。

今の仕事を辞めるつもりだからといって、テキトーにやるわけにはいかない。彼と出会わなければずっと続けていたかもしれない、愛すべき仕事である。数ヵ月私は、早くどこかに決めてしまいたい気持ちと、思うようにならないスケジュールの間でイライラと過ごした。

そしてある時、育児雑誌のクリニックページを任された私は、「育児ノイローゼに悩んだら」というテーマで精神科を特集することになった。市内の精神科をたくさんピックアップし、まずはその中でも大き目の病院にアポをとり、さっそく取材に伺ったのである。

じつにそこが、20件ほどピックアップした病院の、最初の1件目。

取材当日、カメラマンとペアでその病院にお邪魔して、受付の人に担当者を呼んでもらう。この時まだ私は、自分が元精神科作業療法士であることを半分忘れているような状態で、比較的キレイなロビーや、行列を作って待っている患者さんたちを眺めてのんびり待っていた。

出てきてくれたのは、背の高い中年の女医さん。明るい方で、最初から気さくに話せる取材のしやすいタイプである。私たち2人は応接室に通され、まずは基本情報…診療受付時間、対象疾患、治療方針などを確認し、育児ノイローゼ担当であるその女医さんのプロフィール写真を撮影。次に補足の情報も得ようと、もう少し突っ込んだことを聞いてみた。

「とても広い病院ですが、軽症の患者さんから重症の方まで幅広く診てらっしゃるんですか」

「そうそう、この病院はどんな症例でも来いみたいな感じだからね、忙しくて困っちゃうのよ、私も」

「何でも来い、ということは、軽いうつから犯罪歴のある方までいろいろということですか」

「そうなのよ。だからスタッフもすごく多いでしょ」

「2階が閉鎖病棟みたいですが、3階はどうなってるんですか?保護室は3階に?」

「あら、あんた結構詳しそうじゃない」

私はハッとした。そうか、普通そこまで見ないし、考えないか。保護室、なんて言葉も知らないか。

「ああ、突っ込んだことを聞きすぎていたらすみません、私実は以前精神科で作業療法士として、ほんの少しですが働いていたこともあって、」

言い終わるか終わらないかのうちに彼女は、医療用PHSで誰かに連絡を取り始めた。そして、電話を切ってニヤニヤし始めた彼女に、気を取り直して次の質問を投げかけようと思っていたら、カチャリとドアが開いて院長が現れたのだった。

反射的に立ち上がって挨拶し、出来れば院長先生の写真もいただきたいのですが、と言おうとすると、

「作業療法士さんなんですってね。ウチの作業療法課で働きませんか?」

想定の範囲外、とはまさにこういうことを言うんじゃないだろうか。

ハハハ、ご冗談にしてもありがたいお話です、と言い返すと、

「いや、冗談じゃなくてね、作業療法士さんは何人いていただいてもいいんです。こういうのは、縁ですから」

すごい。あっという間に、初対面の人間の採用を決めようとしている。インスピレーション型人間とは、こういう方のことなんだろうな。さすがに私は、最初の就職や実習でのボロボロな様子を白状するのもはばかられ、のらりくらりとごまかして、取材もそこそこにその病院を去ったのだった。

患者さんに鍛えてもらった私の「精神」
思わぬ幸運→あっちゅう間に失望