作業療法士と病院

長期実習・精神科編~私がイジメられた理由(3)~

翌日、相変わらずロビーでプカプカ煙草を吸っているYちゃんに近づき、私は昨日の失言を謝ろうと試みた。

私「あの、Yちゃん、ちょっといい?」

Yちゃんは表情硬く、返事はせずにうなずいた。

私「昨日さ、煙草吸ってまで痩せるなんてバカみたい、なんて言ってさ、ごめんね。自分も吸うくせにさ」

Y「でもたまちゃんは、太ってないからいいよね」

Yちゃんはそれまでに見せたことのない、怖い目をして言った。

私「…あのさ、煙草を吸うと痩せるって、誰かに言われたことあるの?」

Y「…」

私「あのさ、正直に言うね。バカみたいってのは失礼だったけど、煙草を吸って痩せようとするのはおすすめできないんだ」

Y「…」

私「確かに煙草吸って痩せることはあるけど、それは内臓が痛んだり、味覚が鈍くなって食欲がなくなったりすることで痩せるんであって、胃腸や舌には負担がかかってるんだよ」

Y「そうなの?それたまちゃん学校で習ったの?」

私は少しホッとした。まともな反応。Yちゃんの元々の素直な性格がにじみ出ている。言っていることには現実感があり、妄想めいた内容は見られない。

Yちゃんは、普通の女の子がするように、私に意地悪な復讐をしてみただけなのだ。私の言葉に傷つくあまり、「あの学生が煙草をたかった」という本物の妄想に支配されているわけではなかった。

最悪のシナリオは回避できた。

私「そうなんだよ。だからもし、Yちゃんがダイエットのつもりで煙草を吸っているなら、体悪くしちゃうからやめて欲しいんだよ。じつは私も吸い始めたばっかりだから、ヘビースモーカーにならないうちにやめなきゃ、と思ってるんだ」

Y「そうなんだ…」

私「だからさ、せっかくこうして会ったんだから、一緒に禁煙めざそうよ」

Yちゃんの表情がかなり明るくなってきた。

Y「そうか、一緒にね。でも私、急には無理だよ。それに他に痩せる方法、頭悪いから思いつかないよ」

私「私も急には無理だよ。とりあえずテニスとか運動プログラムに参加してさ、体動かそうよ」

えーッ運動かあ…とYちゃん。かなり良い感じになってきた。

Yちゃんの家系にはうつ病の人や統合失調症の方が何人かおり、10代前半のご両親の離婚、ヤンキー時代に男性に乱暴されたことなどがきっかけとなり、若いうちから妄想・幻覚などの症状が出てきたそうだ。

早めの治療開始が功を奏してか、20代前半にして、かなり症状も落ち着き安定している方だ。いつの日か適度にダイエットを成功させて、お嫁さんになるという夢を実現させてほしい…それまでにはさまざまな問題をクリアしなければならないだろうけれど。

意外に早く笑顔を取り戻してくれたYちゃんを見つめながら、私はひと安心したのだった。

しかし、本当の苦労はここからだった!!

Yちゃんとはすぐに和解でき、その後も何の問題もなかった。しかし、Yちゃんの友人の、急性アルコール中毒のMさんを始め、やや妄想が強く出ている人たちが、その後しばらく「あの学生はメンバーに煙草をたかるとんでもないヤツ」というYちゃんにインプットされたイメージを払拭できず、ことあるごとに私をいじめてきたのだ。

* 上靴を隠す。
* 上靴の中に煙草をつめておく。
* 昼食の盛り付け時、おかずにてんこもりの一味唐辛子をトッピングする。
* 美術プログラムで、私の似顔絵を描く。片桐はいりみたいな顔に(これはイジメじゃなくて本気の作品か??)

少なくとも5人のメンバーが協力して嫌がらせをしているのはわかっていたが、似顔絵以外は、5人のうちの誰がやったのかわからずじまい。じつに巧妙だった。

小~中~高と友人関係に恵まれ、この実習で、初めて「いじめ」というものを経験した私。相手が患者さんであっても、その辛さは同じだと思う。

私は日に日に食欲を無くし、顔中にブツブツができた。しまいには担当ケース(うつ病の男性)に恋愛感情を打ち明けられ(恋愛転移といって、患者と治療者の間に起こりがち。本物の恋愛感情と区別される)、キリキリと痛む胃を抱えながら、なんとか実習を終えたのだった。

脱力。。2つの実習を終えてまずは独り暮らしのアパートの部屋でごろ寝したあの日、今までにない脱力感で終日何も出来なかったのを覚えている。ひと仕事やり終えたようで、実はなんにも出来ずに終わったような中途半端な気分。

静かな部屋で白い天井をぼんやり眺めながら、ああ、私本当に精神科作業療法士でやっていけるのかなあ…

なあんて、うっすらと嫌な予感がしていた。

長期実習・精神科編~私がイジメられた理由(2)~
そんな私でも就職決まる。